2011/05/16

台南出身者によるガイドブック 黄小黛『散歩阮台南』

『散歩阮台南』
 tomopeeはちょっとご機嫌だ。残念ながら、隣の本を読んだからではないけどね。将来は華語を自在に操れるようになってくれ。

 2011年5月に出版されたばかりの黃小黛『散步阮台南』(上旗文化)は文字多めで、観光ガイドとエッセイの中間的な書物だ。従って、前回取り上げた『in hand 台南』よりもハードルは高い。台南ガイドの一冊目なら、『in hand 台南』を薦める。
 著者は台南出身の台北在住で、そこそこ有名なブロガー(ここ)らしい。すっかり変わってしまった生まれ故郷を訪ねながら、新旧が融合する現代の台南を語ろうという感じの内容のようだ(例によって通販の方法はこちら)。

 いささか醒めた言い方になるが、derorenは黄氏の個人的感傷にはあまり関心がない。deroren自身も故郷を離れて長いので、たまの帰省では似たような感覚を抱くけれど、それを口外するのはとても白々しく思える。所詮は逃げ出した者の戯言に過ぎないではないか、と。
 まぁそう言い切ってしまうと、感傷に浸りたくて旅に出る人すべてをバカにするようなものだけどね。
 ただ、題字を振發茶行の厳じいさんに書いてもらったり、どうにもあざとい体裁なのだよ。「古くて新しい街」台南で商売するぞって臭いが強すぎて、素直に推薦できない。ガイドブックは商売なのだから、言っても始まらないことだが…。

 余計な話はさておき、内容は老店を中心とした台南のお店の紹介と、いくつかの寺廟の話。寺廟の選び方は悪くないと思う(開隆宮など)。小吃の店も、一般的ガイドに載る店を避けて選んである(もちろん全く無名の店ではない)。
 お茶の店が奉茶雙全紅茶振發茶行というのは狙いすぎじゃないかと思うけど、これらの店を知らない人は、買って読んでも良いかもしれない。

 日本における読み物風台南ガイドといえば、渡辺満里奈『満里奈の旅ぶくれ―たわわ台湾―』 がある。そういう系統の本だと思えばいい。ただ、日本の旅行者が書くようなエッセイよりは、こちらの方がまだ深みはある。
 満里奈本は、台湾の新たな価値を日本国内で広めて観光客を増やすという、当時の観光局の施策が反映されていただろう(そうでしょ?、ゴーストライターさん)。対してこの本は、台湾人意識の高まりに伴う老街、老店ブームを背景とする。だからある程度の台湾文化史が必要とされる。
 その意味で、この本が伝えようとする空気は、台南未訪問者には理解しにくいかも知れない。「食尚玩家 台南玩味」辺りと一緒に読むといいのではないか…と思ったが、品切れのようだ。残念。


 余談だが、黄氏の感覚で面白かったのは、最近の地名変更(台南公園や湯徳章紀念公園など)も「台南の変化」と捉えていることだ。
 余所者のderorenにとっては、国民党が自分たちの偶像崇拝に合わせて名前を変えた場所が、多少はまともな名前に変わったという印象しかない(湯徳章はニュートラルとは言いがたいけど)。しかし国民党政権世代にとっては、どこもかしこもそれ系の名前で埋め尽くされた街が「幼い日の記憶」であるわけだ。
 考えてみれば当たり前の話だけどね。


※もう一冊紹介するぞ。derorenの親バカぶりにも呆れてくれ。

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