2010/11/16
開隆宮
2010.5の台南歩きの最終目的地となったのは、この開隆宮であった。過去二回の旅で立ち寄らなかった地点を一筆書きで結んでいったら、ここがラストになったわけだ。
実は首相大飯店に比較的近い位置にあることも、理由の一つだった(チェックアウトした後、夕方までホテルに荷物を預けていた)。
この宮は呉園(旧台南公会堂)の東北に位置し、中山路から路地に潜るのが一般的なルート。我々は前の記事で書いたように、呉園側から辿り着いた。いずれも道標があるし、中山路に面して派手なゲートも立っているから、迷うことはない。
日本人観光客はもちろん皆無。観光するような要素自体が皆無の小さな廟宇である。
しかしここは七夕になると、台南の子どもたちでいっぱいになる。「做十六」という、台湾でも唯一の祭礼が挙行されるためだ。
開隆宮の主祭神は七星娘媽(七娘媽)という。七柱の女神たちである。
元々1732(雍正10)年に浙江省(山東省という説もある)から神を勧請した際には、廟名も七娘媽廟だった。
この七星娘媽は、いわゆる中国の七夕伝説の女性側、織女である。正確には、織女とその姉六名という説明らしい。
仙界の織女は地上の牛郎と恋におちたが、そのために牛郎は仕事をさぼってしまい、天帝の怒りをかった。なので年に一度しか逢えなくなった……というストーリー自体は、特筆するほどのものではない(日本の伝説とはもちろん違う)。
問題はそこで、二人に子どもがいたという伝承が加わることだ。その子どもは織女らが引き取り、立派な大人に育てた。やがて彼女らを、人々は子どもを護る神として信仰するようになった。
このような伝承は、もちろん実際の祭礼などと関わりつつ生成したものだろう。「做十六」という祭礼は、単なる宗教儀礼ではなく、台南という社会のシステムの一部として機能していたものだ(過去形か現在形かは、私には判断しかねる)。
「做十六」とは要するに成人儀礼である。そのハイライトは、七娘媽亭という作り物の下をくぐること。くぐった瞬間に、十六歳の子どもは大人の一員となる。
七娘媽亭は仙界にある七姉妹の住居ということらしい(祭礼の最後に焼却される)。きちんと調べていないので断言は出来ないが、恐らくは子どもがくぐる際に、いったん(死んで)仙界に行き、再び人間界に生まれるのだろう。マニアックな例を挙げれば、諏訪の甲賀三郎が冥界に行き、戻ることで神に転生したようなものか。羽黒山伏の峰入も、まず最初に「死ぬ」よね。
成人儀礼が「死と再生」なのはわりと世界共通なので、そう間違ってはいないはず。一般人でも知ってそうなものとしては、胎内くぐりやバンジージャンプなどがあるぞ。
清代の五條港地区では、大人にならないと、働いても一人前の給料がもらえなかった。その子どもたちが大人になるイニシエーションとして始まったのが「做十六」であるという。
さすがに現代の台湾で、子どもと大人の境目がこの祭礼ということはなかろうが、ともあれ台南の人々にとっては特別な場所なのである。
ここは子どもに関わる神が一同に会している廟でもある。
註生娘娘である。まず子どもが欲しい人はここで拝拝。
続いて妊娠したら、臨水夫人で安産祈願。無事に生まれた子の成長は七星娘媽に頼めというわけだ。
もっとも、そういう役割分担がきっちりしているのは、たぶんここだけだろう。註生娘娘に健やかな成長を祈る場合も多いし。
奥には観音菩薩も祀られる。そして手前には小さな像だが、なんと清水祖師もおられた。他には土地公や中壇元帥なども祀られており、小さな廟宇のわりには盛りだくさんだ。
観光客の子どもが七夕に「做十六」を体験しても意味はないと思うが(帰属する社会が違う)、子どもについて祈りたい人は拝拝するが吉。新光三越(台南中山店)からも近いよ。
・開隆宮(すごいアドレスの公式サイト)
台南市中西区中山路79巷56號
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おはようございます。
返信削除ご無沙汰しております。
この度、たまたま旧暦の七夕に台南におりましたので、作十六歲を見てまいりました。モーターで動く張り子の黒牛がおりまして、そいつを撫でながら三回牛の周りを廻って短冊に願い事を書くと願い事が叶うんだそうで。その他、朝から頼市長が来て十六歳の儀式が厳かに行われたのですが、友人の娘さんも16歳だったのでその儀式の一部始終を見せてもらう事ができ、大変面白かったです。
しかし、当人の十六歳が思春期で伝統行事に全く興味がなく、始終いやいややっていたのが残念でした。他の子供達は面白がっていたのに。
>がちゃ松さま
返信削除コメントありがとうございます。
返答遅れてすみません。
做十六を御覧になられたとは、うらやましい話です。
ご友人の娘さんの気持ちも分かります(笑)
コミュニティへの帰属意識を前提とする成人儀礼ですから、違和感をもつ人がいるのは当然ですし。