2010/10/10

台湾から日本を知る(ネット通販で買った本)

 博客來で購入した本を、久々に紹介してみる。購入時期は四月なので、五月の旅行までに読んでいるし、既に何度か記事で触れているものもある。
 気になった人は是非買って読むべし。博客來のネット通販の方法はこちらを参照しておくれやす(実は当ブログで一番の人気記事だ)


●陳柔縉『台灣西方文明初體驗』(麥田出版2005.7.11)

 タイトルの通り、台湾に西洋文明がどのように伝わったかをまとめた本。学術書スタイルではなく、「珈琲店」「功克力(チョコレート)」などの項目別にさらっとまとめてあるので、中国語文が苦手な人でもあまり苦労しない。というか、むしろ日本の読者の方が読みやすいかも。
 というのも、実質的にこの本の内容は、台湾の日本統治時代を振り返るものとなっている。その上、当時の資料として載せられているのは、新聞や雑誌の広告が主。広告はほぼすべて日本語で、台湾人の読者向けに解説があるけれど、日本の読者は解説なしに読めるゾ。
 「百貨公司」に営業中の林百貨店が紹介されているなど、旅行者にも役立つ記述はある。まぁしかし、どちらかといえば台湾というよりも過去の日本を振り返る本という感じだ。


●陳柔縉『台灣摩登老廣告』(皇冠文化出版2008.9.15)
 『台灣西方文明初體驗』と同じ著者による本。出版社は違うが、だいたい内容も似たようなもの。「摩登」はモダンと発音すべし。
 今回も資料の大半は広告なわけだが、タイトルにまで広告と入ってしまったのは、前著で評判が良かったからではないかと思われる。ただし前著と同様に、広告ばかりが目立つと台湾っぽさが消えてしまう。
 台湾人にとっては、かつての台湾は日本ぽかったと知ること自体が、新鮮な驚きなのかも知れない。なのでderorenの感じる物足りなさは、あくまで日本の読者というイレギュラーな立場であると断わっておく。
 なお、この本のハイライトはやはり「禿頭薬」だろう。三共「ヨゥモトニック」の広告は、台湾人にも衝撃を与えたに違いない。


●陳柔縉『囍事台灣』(開啟文化出版2009.11.12)
 これも同じ著者だ。台湾はじめて物語シリーズとしては、この三冊ということになる。なお、『宮前町九十番地』も注文済みなので、いずれ紹介するだろう。
 タイトルからは、結婚関係の故事の本にしか思えないが、実際にはパンやタクシーとか海外旅行など、前の二冊と同様の構成である。台北動物園の開祖など、間違って伝えられていることを正す記述が目立つ。
 一部階層のみが享受したものだけではなく、海水浴場や動物園といったものを取り上げている。個々の内容にも台湾人の体験が多く、また一部は国民党政権後まで拾っている。


●鄭道聰『小西門:台南前世今生』(大億吉祥2009.9.1)
 これは既に紹介済。最近の記事で何度も登場しているように、台南街歩きをするなら買って損はない。陳柔縉氏より深みのある内容で、台湾で生きることの難しさを考えさせてくれる点でも推薦する。


 最近の台湾は、昔語りの本がブームとなっている。ネット書店で「那個(その)」と検索すれば、山のように懐旧本が見つかるぐらいだ。
 もちろんそれは、ただ出版のみの現象ではない。「百年老店」ブーム(たとえば振發茶行)、レトロ建築の再生(海安路のこれとか山林事務所とか)、街並み保存(たとえば神農街)など、日本と同様に商業ベースにも乗りながら行われている。今回紹介した四冊は、そういう流れの中にある(主導している)。
 ちなみに、台南には那個年代という名の知れたレストランがあるよ。

 忘れてはならないのは、こうした本は長らく出版出来なかったという点だ。
 近代化が遅れていた大陸から遷った国民党政権は、日本時代をとりあえず全否定することで、どうにかアイデンティティを保とうとした。つまり、すべて「なかったこと」にされた過去を、民主化とともに取り戻す動きなのである。

 正直言えば、陳柔縉氏の本は日本統治時代を美化しすぎである。
 そもそも、西方文明を台湾で「初体験」していた大半は、台湾に移住した日本人であり、ごく限られた台湾人の富裕層が混じっていたに過ぎない(ヨーグルトの購買家庭一覧など、広告もそれを示している)。本当の意味で台湾人の体験を紹介するのであれば、国民党政権時代まで広げなければおかしい(『囍事台灣』は多少改善されている)。
 鄭道聰氏はその点で、バランス感覚に優れている。もっともそれは、自身の半生を振り返るスタイルだから当然といえば当然だ。陳柔縉氏も、ここに挙げたような本だけの人ではないので、その辺は誤解なきよう。

 日本の読者は、陳柔縉氏の本で「日本を知る」ことになるはずだ。昔の広告を見るだけでも笑えると思う。今では許されない誇大広告ばかりだゾ。

神農街
 文字だけで寂しいので神農街の写真を載せておこう。ここはかつて北勢街と呼ばれた港町で、昨今は台南を代表するレトロな街並みとして人気でござる。

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