2010/03/21

日本の台北ガイドブックは、なぜ魅力に乏しいのか?(ガイドブック紹介 その5)

 徹底的に台南びいきの当ブログであるが、次回訪台の際には台北に数泊する予定となっている。
 さぁしかし、台北でどこに行けばいいだろう? 小吃店探訪の方は、まぁそれほど心配していないのだが、見学箇所に困るわけだ。
 で、既に買ってある台北ガイド(以前に一応は紹介したように、「地球の歩き方」「JTBララチッタ」「いい旅・街歩き」「るるぶ台湾」「大人の台湾極楽ガイド」)を熟読してみた。しかし結論は、どうにも魅力に乏しいというものになった。

 なぜだろう?
 仕方がないのでまた博客來網路書店で数冊購入してみた(遂にダイヤモンド会員昇格決定だ)。するとびっくり、台北は面白そうなのである。

談齊好著『台北』(明窗出版社 2008)
 明窗出版社というのは香港の出版社。従ってこれは、香港の旅行者向けの台北ガイドということになる。香港から入国する手続きなどが書いてあって、日本より面倒なのに(今さらだが)驚いた。
 それはともかく、めくって見ると間違いなく日本のどのガイドブックより上である。なぜだろうといろいろ考えてみたが、どうも一番の理由は旅行者の欲望に素直だからではないかと思う。

 内容は、捷運(MRT)の駅ごとに名所や名店を紹介する形。なので迪化街など、駅から遠い地域が載っていなかったりする。永康街は載っているけど。
 日本のガイドと異なる点は、まずショッピングにかなりの力点が置かれている点。百貨店やブランドショップ、書店などに多くのページが割かれる一方、お土産関係の店はほとんど載らない。マッサージも紹介なし。茶藝館はほとんどなく、老舗喫茶店などが多い。大皿料理の店よりも小吃店が多い。ビジネスホテルは基本的に割愛され、その代わりに北投温泉のホテルや陽明山・九份の民宿など、それ自体が観光施設といえる箇所はじっくり紹介されている。
 観光名所のラインナップも大きく異なる。衛兵の交代がどうのなんてのは、全く記載もない。故宮博物院も紹介されない。北投、淡水、陽明山、九份などの郊外は丁寧におさえられている。

 これらから見えてくるのは、ショッピング(ブランド品やタレントグッズなど)、香港にない景観(山と温泉)が両輪なのだろうということ。「台湾だから**しなきゃ」みたいな感覚はないので、烏龍茶よりも紅茶や珈琲の店を紹介する(九份の茶藝館を紹介する写真で、茶藝スペースはいつも日本人でいっぱいだなどと書いてあるのは象徴的だ)。
 もちろん私自身にとって、迪化街や故宮博物院が載っていないガイドは不便である。しかし、どちらも数ページ程度の紹介では何も分からないのも事実で、必要ならそれ専用のガイドを用意すればいいと考えることもできる。
 とりあえず私はこのガイドを読んで、郊外の宿泊施設に関心をもった。何でも手広く扱うガイドブックは何の関心も与えてくれなかったのだから、これはこれでガイドブックとしての価値があるのだ。

 翻って日本のガイドブックを見ると、ツアーで訪れる箇所とツアー客が泊まるホテルを丁寧におさえている。ツアー業者にとっては、「訪問先はガイドに載ってますよ」という質的保証の役割を果たすことだろう。しかし、ガイドブックを本当に必要とするのは、ガチガチのツアー客ではない。
 もっと正直にいえば、日本のガイドブックの作り手は本当に台北に行きたいと思っているのか?、という疑問もある。行きたい人間ならもっと記事に優劣を付けるはずだ。

 昔、某社の京都のガイドブックの編集現場に関わったことがあるが、そこでは全く観光の知識がない社員が、機械的に電話取材を続けていた。出来上がったガイドブックはつまらない上に間違いだらけだった(念のため言うが、最大手に属するガイドブックでの話だ)。
 私の記憶にはそれが残っているので、つまらないガイドブックの裏には、退屈そうな編集の顔を思い描くことになる。台北なら台北の魅力を自分こそが紹介してやろうという、野心と自信が読み取れるガイドブックを、願わくば手にしたいものである。

※同時に買った別の台北ガイドについて、別途記事を書く予定。そちらも併せてお読みくだされ。

6 コメント:

  1. 現地のガイドブックや海外のガイドブックと比較して日本のガイドブックに違いがあるのはある程度仕方が無い部分もありますね。私も(台湾に限らず)両方比較すことがありますが、この辺は編集する国の状況でだいぶ変わるような気がします。(最初に断っておきますが、私はガイドブックの編集に携わった経験がないので、ほとんどは想像ですが。)
    日本で編集する場合重要視されるのは以下の2点ではないでしょうか。
    1.レストランや商店の場合、まず、日本人は外国語がほぼ駄目な人が多いので、日本語あるいはジェスチャー程度でも意思疎通ができる店かどうか、また、読者からの投稿やクレームがあった際、対応できるかどうか?(店主と連絡がつくとか、取材の際のエージェントが追加取材できるとか。)
    2.観光拠点の場合、ある程度の歴史認識なくしても、見た目だけでも楽しめるかどうか。(例えば忠烈祠の衛兵の交代などは、忠烈祠の何たるかを知って見に行く人はごく少数でしょう。)
     一般向けの内容にすればするほど、このような点から紹介できる場所が限られてくるのは、仕方のないことではないかとも思います。
     私などは真剣に台南の廟の面白さを知ってもらいたくて色々本を読んだりして紹介に努めようとしたわけですが、初めて台南、もとい台湾を訪れる人にとってはそれぞれの廟に些細な違いはあれど、どれも似たような感じにしか見えない、というのが一般的な感想のようです。さらに億載金城を例にとれば、歴史の過程を知っていれば、日本との関連も含め大変面白く、且つ重要な歴史遺稿と理解できるわけですが、一般の台南人にとっても「あそこはただ広い運動場があるだけ」という認識ですから、ましてや日本人が興味を抱くのが難しいのは無理からぬことと思えます。
     香港のガイドをお読みになられたようですが、お茶の記述が無いのは、彼らが日常的にお茶を飲んでいて、大陸(あるいは香港)のお茶のほうが台湾のお茶よりも上質である(あるいは種類が多い)、といった自負の念の背景があるのかもしれません。(そもそも台湾のお茶に興味が無いのでしょう。違いがあるのを知らないのかもしれない。)茶芸館は飲茶の習慣を考えれば、彼らがあえて台湾で訪れる必要が無いのは明らかではないでしょうか。ホテル等で言えば、香港の若い世代は不十分とは言え、北京語を話しますので、日本人よりは予約・宿泊等においてはるかにアドバンテージがあるのは明らかで、日本人向けには紹介できない宿も多数含まれるのは当然かと感じます。基本的に彼らは中華圏に属していますから、共通する中華文化以外のものに興味が向くのは自然なことと私は捉えます。
    まぁ、日本語でコアな情報を出しているガイドもなくはないですけれど。キョーハンブックスの歩くシリーズなどは現地取材が原則ですので、ちょっとマニアな店も出ていますね。日本語不可の店も多いです。(”歩く台北”が出ています。ここは台北ナビが全面協力していて、そこが何といえばナニなんですが。)
    台南の本だと日経BPのその名もズバリ「台南」などはかなり詳細ですし、小宮強介氏の「台南体当り四十三ヶ月」あたりは駐在員の目から見た台南について書かれているので、(内容の賛否はあれ)面白い本だと思います。(上記の本、すでにご覧になってのコメントでしたら失敬致します。)
    Webだと現地コーディネーターがブログを持っていて、結構マニアな情報を出していますよ。
    (台湾コーディネーター情報発信局で検索してみてください。飲食店、ホテル関連が多いですが。)
     まぁ、しかし日本のガイドブックに期待ができない、という点はまったくその通りだとは思います。地○の歩き○とか…もう少し気合い入れてほしいですね。(と言いつつ4年に1回ほど買っています…。)

    長文失礼いたしました。
    当方の文章力不足で、お気に障る記述ありましてもご容赦いただけましたら幸いです。

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  2. >Matさん
     長文の考察コメントありがとうございます。
     じっくり返答したいので、とりあえず御礼をば。

     なお当ブログのスタンスは、日経BPの「台南」は全然台南が分かってないなぁ、というものです。
     取材者が台南の文化史、特に「信仰」を理解しないために、薄っぺらい内容に留まってしまったことは残念です(過去に接して来た編集者の傾向からすれば、理解する気がなかった可能性もあります)。
     コーディネーターのブログも読んではおります。コメントはあえて致しませんが。

     香港と日本を比較した場合、台湾に対するスタンスの違い、ガイドブックに求めるものの違い、さらには旅行スタイル(ツアーか自由旅行か)の違いなど、いろいろなレベルがあろうかと思います。
     私がこの記事を書いたのは、一番大きな違いは旅行スタイル、あるいは旅行に対する意識の差なのかな、と思ったからです。ともあれ改めてコメントいたします。

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  3. >Matさん
     さて、続きです。
     香港のガイドの特性は、おっしゃる通りのところがあろうと思います。「ショッピング(ブランド品やタレントグッズなど)、香港にない景観(山と温泉)が両輪」と書いたのは、台湾固有の文化には関心がないだろう、という意味です。その辺は、腐っても大英帝国の植民地ってとこでしょうか。
     茶藝館については、紅茶文化圏だから関心がないのかな、とも思います。

     ただしホテルに関しては、アドバンテージ云々とはあまり関係ないだろうと思います。決められたページを均等に区切って、100字以下の文字量と写真1点で紹介する形式は、日本製のガイドブックの型であって、台湾という固有性には起因しません。
     私が香港製のガイドを読んで興味深かったのは、格差を付けないカタログ方式というのが、もしかしたら日本のローカルなスタイルに過ぎないのでは、と感じたからです。

     私が実際に買ったなかでは「るるぶ台湾」が特に顕著ですが、基本的に台湾ガイドも日本国内のものと同じ作りです。それは観光に関しての知識も何もなくとも、ただ機械的に作れるシロモノです。
     見出しと100字の紹介文、営業日や金額などのデータといった枠を埋めるのは、作業でしかありません(年度ごとに更新する類なら、データが変化してないか確認するだけなので、さらに簡単な作業です)。
     結果として出来上がったものは、店の優劣も分からず、何が売りなのか突っ込んだ説明もなく、体裁だけは整っています。さらに質の悪い広告が間を埋めるわけですね。

    >私などは真剣に台南の廟の面白さを知ってもらいたくて色々
    >本を読んだりして紹介に努めようとしたわけですが、初めて
    >台南、もとい台湾を訪れる人にとってはそれぞれの廟に些細
    >な違いはあれど、どれも似たような感じにしか見えない、と
    >いうのが一般的な感想のようです。

     日本の国内ツアーでも、基本は無知な参加者を募り、ほぼ無知なまま引率し、無知なまま自宅に返すわけですので、Matさんのいう「一般的感想」もやむを得ないことかと思います。
     たとえば京都なら、ありきたりのガイドだけではなく、マニアックな歴史好き対応のガイドブックもあります。全体のパイが大きいので、少数派を相手にしても商売が成り立つからでしょうが、やはり日本語で台湾ガイドという状況でそれは難しいでしょうね。

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  4. >Matさん
     最後に、個別の媒体についてちょっとコメントをば。
     自分が推薦する媒体は、画面上の「台南旅行者向け情報」のリンク先に載せてあります。現地ブログは最近また開拓しているので、いずれ改訂版を書きますが。
     で、ウチは「旅々台北」を推していて、ナビは排除(笑)というスタンスなので、ナビと協力するような雑誌は買わないでしょう。小吃だけなら日本語ガイドブックは不要だし、現地人がうまいという店に素直に行きたいですからねぇ。

     歴史ガイドはとりあえず遠流の「深度旅遊」シリーズですね。台南二冊と台北二冊(『臺北古城深度旅遊』は品切中)買いました。やや日本統治時代の記述が端折られるものの、日本の山川出版社「歴史散歩」シリーズ辺りよりも、良く出来ていると思います。
     まぁ、漢字が苦手とか言われたらそれまでですけどね~。

     そんなわけで、せっかくのご縁なのでMatさんのサイトを右メニューのリンク集に加えさせていただきました。当ブログが不要になるよう、更新に期待しております。

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  5. あれ、意外な展開に驚いております。Link頂くとは汗顔の至りで、恐縮です。まずは御礼申し上げます。

    >私が香港製のガイドを読んで興味深かったのは、格差を>付けないカタログ方式というのが、もしかしたら日本の>ローカルなスタイルに過ぎないのでは

    ヨーロッパ製のガイドを読むと、ホテルやレストランのガイドには写真すらありません。地図の表記も不親切そのものです。(レストランリストはひどい場合はミシュランから丸パクリ。)この辺はロンリープラネットシリーズ(もとはイギリスかな)の日本語版を読んでいただければお分かりいただけるかもしれませんが、編集を行う国(あるいは地域)ごとに対象の旅行者の趣向があって、それに合わせるために編集方針が違うという意味であれば、確かにローカルなスタイルは存在する、と言えます。蛇足ですが韓国は歩き方の丸パクリ(まぁ、版権はちゃんと取っているでしょうけれど)があります。写真・本文・レイアウトもすべて日本のものと同じで、ハングル表記である点だけが違いという凄まじいものです(笑)。
    まぁ、ホテルを調べるのが目当てならば、ホテルだけに絞ったガイドもJHCあたりが出しているようですが。個人的にはホテル探しには最早ガイドブックは活用していません。

    >現地人がうまいという店に素直に行きたいですからねぇ。

    ある程度台湾(あるいは別の国でも良いですが)に行く機会があると、自然に出てくる欲求ですよね。まぁ、でも台湾に限って言えば、台湾人が言ううまい店は大都市に限れば、ほぼガイドブックに載っている店と同じ、ということになりますかね。相当田舎に行けば未開拓の店もまだたくさんありますが、台北あたりだと後は外省人系の店しか残っていないだろうなぁ。この手の店はまずガイドブックに載ることは永遠にないでしょうね。味は良くてもサービスが大陸系(笑)。この辺が理解できる、あるいは許せる人間以外は入ってはいけないゾーンでしょうね。日本人はクレーム付けるのが好きな人が多いですから、まず理解不足のトラブルが起きること確実です。外省人の中にはいまだに日本人を快く思わない人もいますし。この手の店は、ここが同じ台湾かと思えるくらいサービスが違います。あとは下世話な話ですが、お金がたくさん出せればガイド未掲載の良い店はありますけれど、まぁ一般的ではないので…。

    長々となりました。更新頑張ります。(実は新しいデザインは完成しているのですが、内容の改定まで気が向かないのが現状でして…情けない。)今後ともよろしくお願いいたします。

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  6. >Matさん
     「日本のローカルなスタイル」というのが、本当に日本の旅行者の傾向を示しているのか、それともガイドの作り手の質的な問題に過ぎないのか? この記事を書いたきっかけは、その辺の疑問にあるわけです。
     丸パクリでも、それが受け入れられる質なら構わないと思いますが(基本的に私はパクリに寛容なので)、旅行者をあらかじめバカにしたような作り方はやめて欲しいですね。

     まぁこのブログの記事にしても、最近はマニアック過ぎて、日本のガイドブックに慣れた読者には取っつきにくくなっているはずです。
     が、何かのきっかけさえあれば、私以上の台南マニアなんていくらでも誕生するに違いないという認識で、ここを更新しております。Matさんもマニアを増やすために尽力してくださいませ。

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