2011/12/24

台南孔子廟の「虎」異聞

最近、東洋音楽学会『南洋・台湾・沖縄音楽紀行』という本を読む機会があった。この本の出版は1968年だが、内容は1945年以前であり、当時の日本領、もしくは日本占領地を巡るものとなっている。
 残念なのは、各章の具体的な執筆者が分からない点。「学会」編のわりに学術的とは言い難く、内容も物見遊山に近いと断っておく。

 台湾については、「台湾と厦門」という章のなかで取り上げられている。1922年の調査旅行で、分量的には台湾はそれほど多くなく、その大半は原住民の音楽を訪ねて歩くもの。各地で歓待されたらしい原住民関係の記述は、無知ながらもわりと好意的である。
 しかし、そんな中にぽっかりと空いた穴のような箇所、それが台南の記事であった。

 「台南孔子廟の古楽器」という項では、台南市役所の職員の案内で孔子廟を訪れている。そして、所蔵されていた楽器を列挙し、朝鮮王朝の李王家のものとおおむね等しいと述べる。ただし「柷」と「敔」の形態に差異があるという。
 うち「柷」は朝鮮が30cm四方、台南は60cm四方と大きさが違うらしい。少なくとも、全く違う音になるのは間違いなさそうだ。

 問題は「敔」である。
 これは虎の背中に櫛の歯が並ぶ楽器で、朝鮮は長さ1mだが台南はその半分しかない。さらに朝鮮のものは背中を高く立てるが、台南は逆に頭が上がっている。櫛の歯の並びも、朝鮮が一列27個、台南は三列9個ずつ。いずれも、台南の方が演奏し辛い形だという。
 この他の楽器も、音律が滅茶苦茶だとか、鳴らないものがあるとか、散々な評価であった。

 朝鮮王朝がともかくも古代楽を実際に伝えていたのに対して、台南では形式的に楽器を揃えるだけだったことが、こうした差異に結びついたと、一行は分析している。実際、その場に展示してあった楽譜は近代のものだったという。
 で、結論は「今からでも研究して復活させたらどうか」という素っ気ないもの。要するに、このままでは無価値という判断が下されている。読者がどう思うかは知らないが、一行の目的からすれば仕方のない話だろう。

 まぁしかし、掘り返してもあまり価値のない話題をなぜ紹介するのかといえば、彼らが散々な評価を下した「敔」が、今も孔子廟に展示されているからだ。本ブログでは、かつて虎爺特集の時に一緒に取り上げている。
 ツアー客でも孔子廟には行く可能性があるはず。出掛けた際にはこの記事を思い出してみては如何かな(よく分からないまとめになってしまった)。

台南孔子廟
 現在の台南孔子廟。楽器が展示されるエリアには「以成書院」と掲げられている。

台南孔子廟
 この写真の虎こそ、散々な評価の「敔」である。背中の櫛の歯が三列な点など、指摘される通り。
 ついでに、左に見切れている木箱みたいなヤツが「柷」だ。世の中には不思議な楽器もあるもんですな。

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