前衛出版社・遠足文化と並び、derorenは遠流台湾館の良い顧客である。「歴史深度旅遊」シリーズは台南・台北で計四冊購入、そして植物の本まで買ったわけだ。
『福爾摩沙植物記』(潘富俊著)は、「101種台灣植物文化圖鑑&27則台灣植物文化議題」とサブタイトルがあるように、台湾(フォルモサ、美麗島)で見かける植物の図鑑である。特徴は伝来時期ごとに区分していることで、最初に元々の自生種を紹介した後、オランダ以前の伝来、オランダ時代、鄭氏時代……と区分されている。
この本は、上のリンク先でも分かるように表紙から中まで綺麗なイラストが満載である。その辺も良さそうだと思って、やや高いけど買ってみた。そして、買ってびっくりだ。
購入を検討する人に言っておこう。この綺麗なイラストは岩崎灌園『本草図譜』である。私は花の関係の仕事もしているので、そちらで良くお世話になっている江戸時代最強の写生画集だ。どうやら台北の林業試験所図書館に所蔵があるらしく、著作権も発生しないから便利に使っているようだ。
岩崎『本草図譜』は、リンク(直接はれない形式なので国立国会図書館の貴重書画像データベースからタイトルで検索しておくれやす)で見れば分かるように、一応は本草学的な分類を踏襲しつつも、ドイツの植物誌などを取り込んでいる。なので、実は日本になかった植物も沢山載っている。ドイツの出版物を写したせいで、得体の知れない植物すらあるから、引用する際には注意が必要である。
ざっと見た範囲で言えば、鳳梨(パイナップル)の紹介で掲載されたイラストが、どう見てもアダンという例が気になった。「巻68(果部夷果類2)」で該当部分を見つけた(気になった人は上のリンクから辿ろう)ので確認すると、何と「波羅蜜」だとある。その別名に「鳳梨」があって、これがまさかの『台湾府志』から。説明文中には、実の繊維で筆を作り、それを「あだんふて」、つまりアダン筆と呼ぶとある。探したらこんな記事があった。まさしくアダンであって、パイナップルではない。
要するに岩崎灌園は、ジャックフルーツ(波羅蜜)、パイナップル、アダンを混同している。それは彼が、少なくともアダン以外は全く見たことがなかったせいではないかと想像される(アダンは琉球にあったから、情報は入りそうだ)。
この場合、問題なのはあくまで岩崎灌園がパイナップルを知らずに載せた点である。しかし、それを知っているはずの潘富俊氏が、「正確には頂部の葉の中に実が着くよ」なんて白々しい説明まで加えているのはいただけない。結局、欲しかったのは綺麗なイラストであって、学術的価値は二の次だったのかも知れない(この書物の位置づけ自体が)。
まぁそんなわけで、手放しには薦めづらい本ではある。それでもまぁ、好きな人なら楽しめるだろうから、台湾の花好きな人は購入を検討しても悪くはない………って、全く薦めている文章ではないな。
掲載植物から一つ。
仙丹花は清朝時代の渡来だそうだ。日本ではサンタンカ(山丹花)で、なぜか一字違うようでござるよ。
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