紙で作った白馬は、冥界への出入りに使用する。法師も死霊も、移動手段がなければ救えないということらしい。
死霊自体も人形に憑依させるわけだが、この写真の人形は死霊ではなく、薬王かと思われる。
打城法事では、死霊をただ救い出すだけではなく、その治療を行うという。なので薬王(神農)も呼ばれている。まぁ実際に見たわけじゃないので、違うかも知れないけどね。
打城法事をきちんと知るには、通訳が必要だなぁ、としみじみ思う。
自分がそこまで勉強するのが理想なのだが。
上の願文は、写真に撮らせてもらった。親切なのは非常に有りがたいが、住所から親族構成まですべて書かれているので、本当に見て良いものか困ってしまう。
台湾での祈祷は、きちんと住所と名前を書いて行うことがほとんどである。いや、日本の祈祷だって現住所と戸籍名を書くんだろうが、それらを人目にわざわざ晒しはしないだろう。
たとえば受験の祈願ですら、身分証明書のコピーが貼られていたりする。個人情報まる分かりである。月下老人のところに貼られた結婚写真だって、日本ならきっと隠すはずだ。少なくとも自分は京都市内の某神社に自分の写真なぞ貼り出したくないぞ。
……もっとも、安井金比羅宮の絵馬には現住所と戸籍名がガンガン書かれている。あれはほぼ確実に当人の意志とは関係なく(むしろ意志に反して)懸けられた絵馬だから、本当は日本でも似たような思考が存在しているのかも知れない。
さて、話を戻してこの願文だが、親族の続柄や名前を書く欄の先に、印刷された文章がいくつか載っている。まず一つ目は、不幸な死を遂げた者がいて苦しんでいるので、供物を捧げて祈願するのでよろしく、というような内容。二つめは以下の内容だ。
仁聖大帝 作主恩典赦罪、右者亡霊、前生今世、諸般罪愆赦除、萬罪具消、随時赦旨、呈転送到。枉死城池超拔釈放 十五 位亡霊真魂正魄、出離地獄、給本壇神祗引回壇前沐浴更衣浄体、消除口愿、享受功徳、領受庫財。
このうち、「仁聖大帝」は赤いハンコで押してある。また「十五」は手書きだ。右側に書かれた親族の名がちょうど十五名なので、その数字だろう。
仁聖大帝とは、東嶽殿の主祭神、東嶽泰山天斉仁聖大帝である。
ちなみに、この方に見せてもらった(左の人がもっている紙だ)。これから祈願するという時に、見ず知らずのおかしな旅人に親切に教えてくれた呉さんの一族に、平穏な日々が訪れるよう我々からも願っておく。残念ながら東嶽大帝に伝える術はないし、まして我々が今来の神ってわけでもないが。
願文の最後にはこんなフレーズが載っている。西方と天上界が並び立つあたり、まるで『日本霊異記』のようだと思った(そしてこの記事のタイトルは言うまでもなく折口大先生のパクリでござる)。
引転西方、早登神界、祈求家宅老幼合家平安。
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